「そこがヘンだよ日本人の英語」系の語学書におもうこと

書店で参考書をチェックしがてら英会話の棚を見ていると、

「ネイティブはそんな言い方はしない」「日本人のこういう言い方がネイティブにはヘンに聞こえるよ」的なタイトルの書籍が多いのに驚く。

 

確かにこうしたタイトル付けはうまいな、と思う。

人からどう見られるか、を気にする日本人ならば、気になるタイトルにちがいない。

間違っていたり古かったり、ネイティブが聞いて明らかにヘンだと思うような表現を一所懸命覚えるよりはいいだろうし、中級者上級者であれば得るものは大きそうだ。

 

だが、これから外国人とコミュニケーションを始めようという人にとっては、ネイティブにどう思われるかなんて考え出したら、英語をしゃべること自体が億劫にならないだろうか。

 

わたしは、世界50カ国を旅行した身として、

「そんなの気にしないでとりあえず話してみなよ」

と言いたい。

ブロークンイングリッシュでいいわけじゃもちろんないけど、学会発表でもない限り

だれも気にしちゃいないから

通じないことはあっても、だれも気にしちゃいない。

 

世界中に英語ネイティブは4億人くらい、それ以外の英語話者は非ネイティブなわけで。そもそもほとんどの人は、コミュニケーションのために英会話やってるんだよね?

 

コミュニケーションというのは文法的表現的に正確な言語だけによるものではないし、そもそもそんなことは不可能だし。

まあ上手な表現ができればそれに越したことはないし、日々学んでいく姿勢は大切だけど、「こんな言い方したらネイティブに笑われるかも」と思っていつまでもコミュニケーションできなかったらもったいない。

 

それに、日本語ネイティブであるあなたは、外国人が日本語で完璧じゃない表現で話しかけてきたら、いちいち「うわぁ、そんな言い方しないわ」と思うだろうか。

思わないでしょ?

「こう言うのが正しい」とは思うかもしれないが、そういうのを集めた本なんです、冒頭の話は。

 

連日趣味丸出しで恐縮だが、

わたしの敬愛する作家三島由紀夫が『レター教室』(1966)の中で、日本人が英文の手紙を書くコツの部分で、英語の先生から生徒への手紙に次のように書いている。

 

 日本人は、あんまり物事をまじめに真剣に考えて、そのうえお体裁屋ですから、「立派な英文の返事を書かなくては」とか「何とか恥をかかない方法はないものだろうか」などとコチコチになって考えているうちに、つい返事を書くチャンスを逸してしまい、返事がのびればのびるほど、しきいが高くなって、ついにはつきあいをあきらめてしまうことが多い。

 めんどうなら二、三行でいいのです。

「今、台所でお芋が煮えるのを待つあいだ、いそいでこのお返事を書いています。あなたのお手紙はうれしくて何度も何度も読み返しました。私は台所の囚人です。(中略)」

 これをあなたの勝手放題な英語でひとつ書いてごらんなさい。

 これがうまく書けたら、実にチャーミングな手紙になることうけあいです。

 

この本が世に出て50余年が過ぎたが、わたしはこの先生の言うことを支持します。

あ、わたしは予備校の英作文やライティングの授業では誰より厳しくしてますよ。英作文・ライティングの鬼、といえばわたしのことです。